地方分権時代の地方公共団体のホームページ −求められる「顧客志向」の姿勢−
辻田昌弘(2004年1月)

1.地方分権の意味するもの

 よく「お客様は神様です」といわれるが、なぜお客様は神様なのかといえば、それはお客様がお金を払ってくれるからである。では、地方公共団体が地域住民に提供する行政サービスに対して、地方交付税交付金や補助金というお金を払ってくれる国は、地方公共団体にとってお客様だろうか。答えは「否」である。なぜなら、いうまでもなく、国が配分する地方交付税交付金や補助金は、元を正せば地域住民が納めた税金だからである。しかし、国が納められた税金を地方公共団体に再配分するという従来の仕組みの下で、残念ながら地方公共団体は、地域住民こそが本来のお客様であるという事実を忘れてしまっていたのではないだろうか。
 国と地方公共団体の役割分担の明確化や機関委任事務の廃止などを主眼とする「地方分権一括法」が2000年に施行され、我が国の地方自治の在り方は、地方分権へと大きく舵が切られた。現在「三位一体改革」において議論されているように、地方分権は国から地方公共団体への税源の委譲を伴う。税源の委譲を通じて、行政サービスの「受け手」である地域住民が、同時にその対価たる税金の「担い手」となるという至極真っ当な状態が成立することになる。ここに至ってようやく、地域住民は名実ともに地方公共団体のお客様となる。
 現在、地方公共団体においてもCRM(顧客志向の取り組み)が始められているが、民間企業においては、「顧客志向」は経営の基本中の基本である。市場原理の下で活動する民間企業にとっては、提供する製品やサービスを購入してくれる、すなわちお金を払ってくれるお客様こそが、企業の生殺与奪の権を握る、まさに「神様」だからである。同様に、地方分権を前提とするならば、地方公共団体の経営においても「顧客志向」はその基本に据えられなければならないだろう。なぜなら、地方公共団体の業務の内容は、今後は地域住民との受益と負担の関係によって具体的に決められることになるからである。
 

2.地方公共団体におけるホームページの位置付け

 顧客志向を自治体経営の基本に据えた場合、顧客たる地域住民とのインターフェイス(接点・接触面)の在り方は、従来とは全く異なるものとなる。中央集権の時代においては、行政サービスの中身は基本的に国が決定し、地方公共団体の仕事はそれを地域住民に対して執行するだけであったため、地域住民とのインターフェイスについても、必要な事項を地方公共団体から地域住民への通知で事足りた。例えば、これまで地域住民とのインターフェイスにおいて中心的な役割を果たしてきた「広報紙」は、大半の地方公共団体において月1回程度の発行である((社)日本広報協会「平成12年度市区町村広報広聴活動調査」より)が、単なる「お知らせ」であればその程度の発行頻度でも十分だったのである。
 しかし、地域住民を「顧客」としてとらえ、その行政サービスに対する多様なニーズにきめ細かく対応していくためには、広報紙のような媒体だけでは顧客に提供すべき情報の量・質・鮮度などの面で限界があることは明白である。そこで、こうした広報紙の持つ限界を補完する新たな情報提供媒体として、ホームページの活用を真剣に検討してもよいのではないだろうか。
 もちろん、インターネットの普及が急速に進んでいるとはいっても、現時点ではすべての住民が利用できるわけではないので、地方公共団体のホームページを通じた情報の提供には公平性の観点から一定の限界があるという点には十分な配慮が必要である。しかし、その一方でインターネットには、その即時性や双方向性、あるいは情報蓄積性(データベース性)といった特質をいかした様々な展開の可能性がある。要は、広報紙かホームページかといった二者択一的な発想ではなく、様々な媒体をその特性に応じて使い分け、あるいは組み合わせるというメディア・ミックスの発想が求められているのである。


3.顧客志向こそが基本

 (財)地方自治情報センターが運営する全国の地方公共団体のサイトへのリンク集「NIPPON−Net」には、3,273の地方公共団体のサイトが登録されている(平成15年11月27日現在)。つまり、今やほぼすべての地方公共団体がホームページを持っているのである。もはや地方公共団体は単にホームページを持っているかどうかではなく、その「中身」を問われる時代に入っている。
 前述のように、地方公共団体にとってインターネットは様々な可能性を秘めている。「電子自治体構想」においては、例えば、その双方向性をいかして住民のニーズを拾い上げる電子会議室であるとか、様々な申請や手続の電子化といったことがその可能性として語られることが多い。しかし、地方公共団体のホームページを地域住民とのインターフェイスと考えるならば、そうしたいわば「応用編」の導入を検討する以前に、まずは地域住民との接点としての「基本」がしっかりとした状態、すなわち顧客志向を体現した状態にすることから始めなければならない。基本ができていなければ、応用編の導入などは到底おぼつかないはずなのだが、残念ながらこの基本に当たる部分ができていないホームページが、まだまだ思いのほか多いのである。以下に実際の例を紹介しよう。


4.住民の立場で作られているか

 筆者は、地方公共団体のホームページが顧客志向をもって作成されているかどうかをチェックするための物差しとして、夜間休日救急診療に関する情報がホームページ上でどのように扱われているかを見ることにしている。夜間や休日の急患対応というのは、地域住民にとって緊急性を要する切実な問題である。しかも、役所が閉庁している夜間や休日において、突発的にそのニーズが発生する。だからこそ、まさにホームページにならではの強みがいかせるコンテンツだと考えられるからである。
 しかし、実際には、例えばトップページに夜間休日の急患対応を想起させるようなテキストやアイコンが見当たらずに、あちらこちらのリンクを開いてようやく見つかるホームページや、リンクが何段階にもわたっていて目指す情報が記載されているページにたどり着くのに時間が掛かるといったホームページが散見される。少々の発熱や発作ならば翌朝まで我慢して正規の病院に行こうと思うのが普通であり、夜間休日救急診療を利用するのはよほど切羽詰った状況にあるということを意味している。にもかかわらず、頼みの綱となるべきホームページから必要な情報を即座に引き出せないということであれば、これは本末転倒といわざるを得ない。
 さらにたどり着いたページにそもそも必要な情報が掲載されていないというケースもある。夜間休日救急診療所の住所は記載されているが、所在地を示す地図が掲載されていないという地方公共団体のホームページも見受けられた。夜間休日救急診療所に日頃から通い慣れているなどという人がそれほどいるとは思われず、むしろ初めて利用する人も多いだろう。だとすれば急病人に対して、記載された住所を頼りに自分で地図で探して来てくださいといっていることにならないだろうか。
 この点、例えば千葉県市川市のホームページでは、トップページに「医療機関の情報」というリンクがわかりやすく配置されており、そこをクリックすると「市内のお医者さん」というページが開き、画面左上の最も視認しやすい場所に目立つかたちで夜間・休日の診療のページへリンクが張ってある。
 目的のページまで2回のクリックを要するものの、クリックするのは「医療機関の情報」→「急病診療所」という、まさに「読んで字のごとく」であるから、極めて直感的に進んでいける。もちろん、目的のページには所在地の地図が掲載されていることはいうまでもない。


5.抜けきらない「縦割り」の意識

 住民の立場に立って作られていない地方公共団体のホームページが存在する背景には、中央集権時代の「縦割り」の発想から地方公共団体が依然として抜けきれていないことがあるのではないだろうか。
 これらのホームページに共通する特色として、トップページのメニュー項目が担当部署ごとに並んでいるという点が指摘できる。もちろん、さすがに「○○課」「△△課」と、部署の名称が並んでいるわけではなく、その部署の業務内容を表す単語に置き換えられてはいるが。例えば先に挙げたような、夜間休日救急診療に関する情報に容易にたどり着けないホームページの場合、トップページの項目としては「福祉」とか「健康」あるいは「保健」といったキーワードから当該ページへのリンクが張られている場合が多い。これは、夜間休日急患を所管する部局の名称が、例えば「福祉課」といったようにこれらの単語を含んでいるからであろうと推測される。
 同様の例は図書館に関する情報でも見られる。図書館は教育委員会の所管であることからか、例えば「生涯学習」という項目から図書館情報へのリンクが張ってあるホームページがしばしば見受けられる。しかし、一般住民が「福祉」「健康」「保健」というキーワードから夜間休日救急診療を、あるいは「生涯学習」というキーワードから図書館を、それぞれ容易に連想できるだろうか。
 地方公共団体の職員にしてみれば、何がどこの部署の所管なのかは周知の事実かもしれないが、それを一般市民も同様であるなどと考えてはいけない。多くの市民にとっては、夜間休日救急診療や図書館の所管がどこの部署であるかなどということは、それこそ「知ったことではない」のである。地方公共団体のホームページでは、この手の、組織図をそのままホームページにしたような「部署縦割り」型のサイト構成になっているところがまだまだ多い。つまりは、組織「内向き」の論理、縦割りの意識から脱却できていないといえよう。
 膨大な情報量を有する地方公共団体のホームページにおいて、トップページはその玄関口として、様々な目的を持つ来訪者をその目的に応じて適切なページへと誘導する役割を担っている。つまり、トップページに記載されているアイコンやテキストはいわば「大分類」に当たり、そこからリンクをたどって「中分類」「小分類」へと分け入っていくというのが基本的な構造である。それゆえ、特にトップページにおいてはコンテンツがどのように分類されているのかが直感的に分かるようなネーミングを付けることが重要になるわけである。
 にもかかわらず、こうした旧態依然の仕事のスタイルがそのまま投影されたようなホームページは、利用する側から見ればストレスの塊である。ホームページ上で目指す情報にたどり着けずに右往左往するのは、役所に問い合わせの電話をして、なかなか担当の部署につながらないことに等しいのだということをホームページの制作担当者は肝に銘じるべきである。


6.ユーザビリティに始まりユーザビリティに終わる

 よいホームページを作るために重要なことは、アクセシビリティとユーザビリティであるとよくいわれる。このうちアクセシビリティ、すなわち子供や高齢者、障害者を含む多様な市民が、それぞれのITリテラシーの程度に関わらず、また回線や使用機材等のインターネット接続環境に左右されることなく、等しくアクセスできるようにすることは、公共性の高い地方公共団体のホームページにおいては当然の前提である。ただし、アクセシビリティの向上に関しては、サイト制作上の技術的なポイントに関わるものが多く、ウェブ・アクセシビリティに関する各種の指針やガイドラインに準拠することで相当程度の改善が可能である。
 一方のユーザビリティ、つまり「使いやすさ」とは、詰まるところ次の2点に集約される。まず第一は、顧客である地域住民の視点に立って、住民が必要とする情報が適切な形でホームページに掲載されていることである。先に挙げた事例でいえば、夜間休日救急診療所を探す住民にとっては、診療所の営業時間、診療科目といった情報とともに、所在地の「地図」が「必要な情報」なのである。そして第二は、住民が、その必要とする情報をスムーズに入手できることである。先に挙げた事例では、ホームページ上を右往左往することなく、直感的に目的とする情報にたどり着けることである。
 ところが、アクセサビリティとは違って、ことユーザビリティに関しては、サイト制作のテクニックで改善できる余地はあまり多くない。なぜなら、ユーザビリティとは、サイト運営者である地方公共団体の、顧客に対する基本姿勢の現れだからである。
 この点に関して、民間企業のブランド戦略の第一人者である片平秀貴・東京大学教授は、消費者が、好意を持っているブランドのサイトを見てその出来が悪いと感じると、そのブランドに対する好意度や購入意欲が下がるという調査結果を示した上で、以下のように述べている。
「いくら金をかけようとも、またいくら有能なコンサルタントに相談しようとも、すぐにいいサイトが出来上がるわけではない。実はウェブサイトをつくるということは、リアルな世界のブランドの姿をそのまま映し込むことにほかならないからである。(中略)インターネットは企業の顧客への姿勢を問うリトマス試験紙なのである。本質的に顧客を大事にしてきた企業は、インターネットをうまく活用してさらに真価を発揮することができる一方、今まで顧客のことを無視しながらも何とか生き延びてこられた企業は、その本性が暴かれることになる。
(片平秀貴著『ブランド・エンジニアリング』2003年日経BP社刊)」
 文中の「企業」を「地方公共団体」に、「顧客」を「住民」に置き換えてもう一度読み直してみれば、先に挙げたような、組織「内向き」の論理、縦割りの意識がそのまま映し込まれたようなホームページは、その存在自体が自らの顧客志向の欠如を住民に示しているにほかならないことが理解されよう。まさしく、ホームページとは地方公共団体の顧客志向を映し出す鏡なのである。だからこそ、そのユーザビリティの向上のためには、「リアルの世界」すなわち実際の行政サービスの現場における顧客志向の徹底に向けて、地方公共団体が全庁を挙げて取り組む覚悟が求められるのである。


7.ベストプラクティスに学ぶ

 とはいえ、ユーザビリティの向上の手法、換言すれば顧客志向の何たるかを学ぶ術がないわけではない。それは先進的な地方公共団体の取り組み事例、すなわちベストプラクティスに学ぶことである。地方公共団体のホームページを評価してそのランキングを発表するという試みが様々な機関で行われている。かくいう当21世紀政策研究所においても、過去にそういった調査をしたこともあるが、地方公共団体の側から見て、この手のランキングの結果、特に自身の地方公共団体のランキングの順位に一喜一憂する必要はない。なぜなら、ランク付けに際しての評価尺度に何を持ってくるかによって、ランキングの順位はいかようにも変動する反面、それぞれの機関が設定する評価尺度がだれの目から見ても普遍的な尺度であるということはあり得えないからである。
 しかし、こうしたランキングの上位にランクされる地方公共団体のホームページというのは、総体としてはバランスの取れた、いわゆる「出来のよい」ホームページサイトであるということは少なくともいえるだろうから、そうしたホームページを自身の地方公共団体のホームページと比較して、一体どこが違うのか、自分たちのホームページに不足しているものは何か、とチェックしてみることは、顧客志向について考える上で有用である。
 例えば、先般日経BPコンサルティングが実施した「自治体サイト・ユーザビリティ調査2003」では、新潟県柏崎市、埼玉県さいたま市、東京都港区、滋賀県守山市、東京都小平市が総合スコアでベスト5にランクされているが、確かにいずれのホームページもそれぞれに大変よくできている。
ちなみに、筆者がユーザビリティの評価尺度としてこだわる「夜間休日救急診療」について見てみると、柏崎市、さいたま市、小平市はトップページからスムーズに目的ページにたどり着け、地図も完備されており、合格点を付けられる。特にさいたま市は、トップページ最上段に特に目立つように「緊急時には」というアイコンがあり、そこから医療と防災に関する情報に即座にアクセスできるようになっている。
その一方、ランキングの上位にあっても筆者独自の尺度である「夜間休日救急診療」に限れば、必ずしもユーザビリティが高いとはいい難いところもあり、ことほど左様にランキング結果などに神経質になる必要はないのである。大事なことは、もしサイト制作担当者が筆者と同様に、夜間休日救急診療に関する情報を住民にとって重要と認識するならば、さいたま市や柏崎市、小平市のサイトを参考にしてそのよい点を取り入れて、自身の地方公共団体のホームページをよりよいものへと改善していけばよいということである。
いずれにせよ、ホームページ制作にゴールはない。それぞれの地方公共団体が試行錯誤を積み重ねていくことによってしかユーザビリティは高まらないし、ホームページ制作に掛かるそうした試行錯誤のプロセスを通じて、地方公共団体の顧客志向は「リアルの世界」においても同時に鍛えられていくのではないだろうか。




(財)地方自治情報センター「月間LASDEC」2004年1月号所収

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