[皇居周辺−闇の向こうに輝く窓々] 光と闇のデートコース                        辻田昌弘

 東京で夜景のきれいな場所といえば、まず、レインボーブリッジをはじめとするウォーターフロントの景観や、超高層ビルからの眺めなどが挙げられる。しかし、ふだんは見過ごされがちなのだが、ここ千代田区にも夜景を楽しむのに絶好の散歩道がある。皇居の周り−内濠のお濠端である。 

 「皇居一周ナイトツアー」の起点は地下鉄東西線竹橋駅。地上に出たら、まず清水濠に架かる「竹橋」のたもとの小さなポケットパークに下りてみよう。平川橋の向こうに見える大手町のビル群の灯が大手濠の水面に映る姿は、思いがけない発見をしたように感じるほど美しい。そこから内堀通りを大手町方向へ向かう。 

 かるがもで有名な三井物産ビルの前あたりで内堀通りは南に方向を変える。この付近からは正面に東京タワーを眺めることができる。さらに進むと左手に和田倉の大噴水が見えてくる。今上天皇のご結婚記念として1961年に建設され、皇太子殿下のご結婚を機に姿を一新した。水に浮かぶように見えるしゃれたレストラン「和田倉休憩所」でひと休みしてもいい。行幸通りの並木道の先にはライトアップされたJR線東京駅の駅舎が見える。

 皇居外苑の木々の向こうにきらめく丸の内の灯を眺めつつ、祝田橋の手前で右折。桜田門の暗がりを抜けると、いきなり眼前に法務省赤れんが棟から警視庁、国会議事堂を一望するパノラマが開ける。ここから半蔵門までは桜田濠に沿ったゆるやかな上り坂が続く。疲れたら立ち止まって後ろを振り返ってみよう。霞ヶ関の官庁街が輝いて見える。

 半蔵門を過ぎると景色ががらりと変わり、街灯に映える街路樹の緑を楽しめる道となる。左手に英国大使館を、右手に闇に包まれた皇居の森を眺めつつしばらく歩くと、桜の名所として名高い千鳥ケ淵公園の入り口がある。夜桜の季節以外は人通りの少ない静かな小径を歩いていくと、木の間越しに日本武道館の屋根の「ねぎぼうず」が見え隠れしてくる。千鳥ケ淵ガーデンロードを抜ければ靖国神社の脇にでる。坂を下れば、地下鉄九段下駅はすぐそこだ。 

 マンハッタンや香港、国内では神戸の六甲山や函館など、夜景の名所に共通していることは、光り輝く建物群の美しさを際立たせる水面や森といった「暗闇」の存在だろう。皇居の周辺では、お濠の水面と皇居の森の暗闇が、メトロポリス東京の夜景を見事に引き立てている。

 さて、このコース、一周すると約5kmあるので、ゆっくり歩けば1時間は必要だが、皇居周辺には地下鉄各線の駅が集まっているため、時間と体力、状況に応じて調節がきく。しかも周囲にはレストランやバー、ホテルなどが程よく散らばっている。つまり、デートコースとしても最適なのだ。「食事」→「夜景を見ながら散歩」→「ひと休みしてお酒でも」というデートの「起・承・転」の要素は揃っている。そのまま「結」にもち込めるかどうかは運次第だが、地下鉄の駅が多い「強み」は同時に「弱点」にもなる。「きょうははとても楽しかったです。そろそろ終電に間に合わなくなるので、このへんで失礼します…」という結末に陥りやすいので、念のため。


三井不動産S&E研究所編『東京都心散歩・千代田区』(日本経済新聞社刊)所収
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