小泉改革の目玉の一つ、構造改革特区制度が誕生して1年。規制緩和という商機を背景に、企業も自治体も得をする好循環が生まれつつある。
地方自治体や民間からの自発的な提案に基づき、特定の地域で規制を緩和する「構造改革特区」制度。昨年4月に最初の特区が誕生してから1年以上が経過した。これまでに全国で386件の特区計画が認定されるなど、制度は順調な滑り出しを見せている。2年目となる今年度はいよいよその具体的な成果が問われることになるが、計画認定から1
年を経ずして、一定の成果を示した特区がある。主に企業誘致を目的とする一連の特区である。特区には企業の工場や物流施設、研究所などを誘致して、地域の産業集積を目指すものが少なくない。構造改革特区推進室の分類によれば、「国際物流関連」「産業活性化関連」「産学連携関連」の3分野がこれにあたり、その数は82にのぼる。
ミスマッチの解消
21 世紀政策研究所の調査によれば、構造改革特区における規制緩和が企業誘致の契機となったと考えられる事例は、11
特区で22 件、土地面で約85ha にのぼる(表)。このうち件数がもっとも多いのは「土地開発公社造成地の賃貸の容認」という規制緩和を活用した事例だ。
土地開発公社とは自治体が全額出資して設立する外郭団体で、自治体の委託・要請を受け公共用地や代替地の先行取得を行うほか、工業団地や宅地の造成を行う場合もある。土地開発公社の造成した土地は公有地拡大推進法により賃貸を認められていなかったため、土地開発公社の工業団地では、これまでは分譲しかできなかった。一方で、含み資産経営から資金効率重視経営へという流れのなかで、企業の側は分譲より賃貸を希望する傾向を強めており、ここにミスマッチが生じていた。
こうした点を踏まえ、特区の規制緩和で、土地開発公社造成地について賃貸が認められることとなったが、この制度を利用して賃貸に切り替えた公社では、企業からの引き合いが増加しているという。
兵庫県加西市の「産業集積特区」内の加西東産業団地の場合、2001 年の販売開始以来、分譲ではまったく売れなかったものが、賃貸に切り替えた途端、2
件の成約があったという。同団地の賃貸料は年額で分譲価格の1.5%程度(固定資産税等別途)に設定されており、分譲で購入する場合に必要な資金の金利と比べても割安感がある。
千葉県の「国際空港特区」では、これまで第三セクターにしか認められていなかった「総合保税地域」の運営が、民間企業でも可能となった。総合保税地域の指定を受けると、外国から輸入された貨物の荷揚げ、荷さばき、保管、加工、展示などの工程を保税状態(関税・消費税などが保留された状態)のまま一貫処理することができるため、納期の短縮、コストの削減を図ることができる。
この規制緩和を受けて、米国の物流施設専門の不動産開発会社、AMB プロパティ・コーポレーション(カリフォルニア州)の日本法人が、成田空港近接地に大規模物流施設、AMB 成田エアカーゴセンターの建設を決定、民間初の総合保税地域の指定を受ける予定だ。同センターは今年4 月に着工、延べ床面積16 万uと、国内最大級の航空貨物専用の物流施設となる。企業の具体的なニーズに対応した規制緩和策を講じることが、企業進出につながった。
多くの自治体が売れ残りの工業団地や物流団地を抱え込んでおり、それが自治体財政を圧迫している。これらの自治体にとって、企業誘致は税収や雇用の増加という地域経済への波及効果だけでなく、財政再建という観点からも喫緊の課題である。
自治体による企業誘致と言えば、02 年の三重県によるシャープの液晶テレビ工場の誘致が記憶に新しい。総投資額1000
億円にのぼる大型工場を誘致するために、三重県は最大90 億円の補助金をシャープに支給するという異例の決断をした。
以来多くの自治体が、進出企業に対する補助金の給付、地方税の減免、低利融資の斡旋といった財政支出を伴う優遇・支援策を打ち出すなどして、企業誘致にしのぎを削っている。先般公表された経済産業省の工場立地動向調査によれば、全国の工場立地は対前年比で件数で25%、面積で52%と、3
年ぶりに大幅増加に転じた。同調査によれば、企業が立地を決定する際の理由として「地方自治体の助成・協力」を挙げる企業が急増している。
自治体も差別化戦略
しかし、今後危惧されるのは誘致合戦のエスカレートだ。補助金など財政支援の額がつり上がっていくことが懸念されるが、それは昨今の自治体の財政事情を考えれば、体力的にかなり厳しい。財政悪化を回避して企業を誘致するにはどうしたらいいのか。
北九州市の「北九州市国際物流特区」では、資本関係のない企業間でも自前の送電線による電力供給を認めるという規制緩和を受け、新日本製鐵が100%子会社「東田コジェネ」を設立、発電施設を新設し、周辺企業に安価な電力を販売することとなった。今年3月に着工された東田天然ガスコジェネ発電所(出力3 万3000 キロワット、総事業費約40 億円)は、周辺約120ha を送電エリアとし、供給を希望する企業には独自の送電線を張って電力を供給する。燃料の液化天然ガスのパイプラインには既存のものを用い、また発電で生じた廃熱、蒸気は製鉄所で利用するなどして、九州電力より一割以上安い価格での供給を見込んでいる。
この場合、規制緩和によって東田コジェネという新規の工場が立地したことに加え、周辺の企業は安価な電力を利用できるようになり、さらにはそれが誘因となって当該地域へ新たな企業進出を促すことにもつながっていく。一方、北九州市当局は特区における規制緩和の適用を受けるために、知恵を絞り、また汗もかいたが、少なくとも追加的な財政支出という「腹」は痛めていない。
自治体の財政支援による企業誘致の場合、企業と自治体は「Win-Lose」(一方が勝ち、一方は負ける)関係にあるが、この北九州市の事例では、関係者がみなメリットを享受できる「Win-Win」(ともに勝つ)関係となっている。体力勝負ではなく知恵と工夫で勝負する差別化戦略の典型例であるといえよう。
工場立地動向調査では、03 年の工場立地は対前年比で208 件、面積で453ha
の増加となっている。一方、表に掲げた特区における企業進出実績は22 件、85ha。調査対象が必ずしも一致しないため単純には比較できないが、増加分の約1〜2
割程度に相当することになる。特区制度を利用した企業誘致の件数は今後さらに増加していくとみてよい。各自治体がこの制度を今後どのように活用するかが、地域の空洞化に歯止めをかけ、地域経済を活性化させていくうえで重要なポイントとなるだろう。

毎日新聞社「週刊エコノミスト」2004年7月6日号所収
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