自治体改革とPFI                                   辻田昌弘

逼迫する自治体財政
  自治体の財政危機が深刻化しています。東京都、大阪府、神奈川県、愛知県など、主に都市部の自治体で「財政非常事態宣言」が昨年来相次いでいます。都市部の自治体の財政がこれほど急速に悪化したのは、主として景気低迷による税収、特に法人二税の落ち込みが原因ですが、問題は都市部に限ったことではありません。ご承知のとおり、全国自治体の経常収支比率は平均で八四・八%(平成八年度)に達しており、程度の差こそあれ苦しい台所事情であることに変わりはありません。
 これに加えて、相次ぐ景気対策に伴って発行した地方債の償還が今後本格化することから、地方自治体の財政がさらに悪化することは不可避の状況です。
 こうした状況に鑑みれば、今後各自治体は、行財政改革に本格的に取り組まざるをえないことは言うまでもありません。現に財政危機に直面している自治体では、人員削減を含む人件費の抑制、公有地の売却、あるいは一部の公共サービスの縮小といったいわゆる「リストラ」が始まっています。
 しかし、こうした努力ももちろん大切ですが、それだけでは問題の本質的な解決にはつながりません。重要なことは、地方行政の仕事の進め方そのものを抜本的に見直すことなのです。

自治体改革の目指すもの
 残念なことに、これまで地方自治体は中央省庁のほうを向いて仕事をしてきました。これは、国と地方自治体の歳出と歳入を比べた場合に、地方自治体が全体の三分の二を使っているにもかかわらず、租税総額に占める地方税の割合は三分の一に過ぎないといういびつな構造になっているため、地方自治体はその活動に必要な財源の多くを国からの配分に頼らざるをえないことに起因しています。
  その結果、地方自治体の仕事は、いかに中央省庁の予算配分に与かるかということを中心に廻ることになるのですが、そこには地域住民こそが本来の「顧客」であるという視点はなく、また行政サービスの対価である税金を効果的・効率的に使おうとするモチベーションも働きません。
 これを、民間企業における経営の基本であるプラン(企画立案)・ドゥ(実施)・チェック(評価)といういわゆるマネジメントサイクルの視点から見ると、現状ではプランとチェックは中央省庁の仕事であり、地方自治体はドゥの部分のみを担っているということができます。
 しかし、「自治体経営」というからには、このマネジメントサイクルを自治体が自らの手に取り戻す必要があります。そしてそのためには、中央省庁から地域住民へと目線を一八〇度移すことから始めなければならないのです。具体的には、地域住民のニーズに合った政策を自ら企画立案し(プラン)、それを限られた資源を効果的・効率的に使って実施し(ドゥ)、その結果を評価したうえで(チェック)、次なる政策の企画・立案へとフィードバックさせていくというサイクルを廻すことを通じて、自治体の経営能力は高められていくのです。
 こういうことを言うと、地方自治体の方からは、中央から地方へ権限が委譲されていない現状ではそれこそ絵に画いた餅ではないか、と言われます。一方中央省庁の側からは、地方自治体には権限委譲の受け皿たる充分な経営能力が備わっていないという反論がなされます。しかし、これでは鶏が先か卵が先かの議論と同じで、どこまでいっても平行線のままです。地方分権と自治体の自己改革はどちらが先かという問題ではなく、真の「地域主権」を実現するための車の両輪であるということを認識しなければなりません。
 行政改革への先駆的取り組みで知られる北九州市の末吉興一市長が「国の縦割り行政を批判する前に、自らが率先してこれを改めていくことが大切だ」と述べているように、初めに分権ありきではなく、まずは自らできるところから改革を進める努力が必要なのです。

PFIの意義
 さて、民間セクターが持つノウハウや資金を活用して社会資本整備を図る手法として、PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)という事業スキームが昨年来注目を集めています。PFIとは、一言で言えば従来公的セクターが担ってきた事業を民間セクターに任せ、民間の創意工夫と競争原理を通じてより効果的・効率的な公共サービスの提供を目指すものです。
 PFIは「行政改革先進国」英国を発祥としますが、我が国においてもその導入、促進を図るべく昨年五月に自民党から議員立法によりいわゆる「PFI促進法案」が国会に上程されました。しかしこの法案については問題点もいろいろと指摘されています。一例を挙げれば、この法案では事業主体となる民間事業者に対して国あるいは地方自治体による出資や債務保証の道が開かれていますが、これは官民の事業リスクの適切な配分というPFI本来の長所を減殺するものであり、責任の所在が不明瞭になることによってバブル期に安易に乱立した第三セクター事業の二の舞ともなりかねないことを懸念する意見も多く見受けられます。
 とはいえ、PFIというスキームそのものは、厳しい財政事情の下で、増大する住民の行政ニーズに対応しなければならないという、行政が今まさに直面している相反する命題の解決を可能にするものとしてその活用が期待されています。そして、PFIの導入を具体的に考えた場合、住民に直接サービスを提供している地方自治体こそが、PFIの中心的な担い手となるものと想定されます。

問われる自治体の経営能力
 PFIの目的は「顧客」である住民に費用対効果の面で優れた高水準の公共サービスを提供すること(バリュー・フォー・マネー)にありますが、その目的の実現のためには、さきほど述べたようなプラン・ドゥ・チェックという経営のサイクルが自治体内部に備わっていることが必要不可欠になります。
  PFI事業の基本的な流れは別図のようになりますが、この流れに沿ってそれぞれの局面で自治体に必要とされる能力について具体的に見てみましょう。 まず「事業の選定」から「最適な手法の選定」「事業の企画」といったプロセスにおいては、プランすなわち∧企画・立案能力∨が求められます。次に「事業者の公募と選定」から「交渉・契約」「事業の実施」に至るプロセスにおいて必要となる能力は、主としドゥすなわち∧事業の効果的・効率的遂行能力∨を通じて強化されるものです。そして、「パフォーマンス・チェック」および事業全体を通して必要となる「透明性の確保」のためには、チェックすなわち∧分析・評価・説明能力∨が求められます。つまり、PFIを効果的に推進させるためには、自治体の経営能力そのものが問われるのです。その意味では、PFIは自治体の経営能力を測る試金石となるといえましょう。
 PFIは両刃の剣です。うまく使えば住民本位の効果的・効率的な行政サービスの実現につながりますが、安易に流れれば第三セクター事業と同じ轍を踏むことになります。そしてその成否はひとえに自治体の経営能力のいかんにかかっているのです。しかし見方を変えれば、PFI事業に積極的に取り組むことを通じ「実戦経験」を重ねることによって、自治体の経営能力そのものが鍛えられるということもできるのではないでしょうか。

住民本位の地域行政の実現に向けて
  「お役所仕事」という言葉があります。この言葉は広辞苑にも載っていて、「形式主義で非能率的な官庁の仕事ぶりを皮肉っていう語」とあります。しかし、これは個々の職員の方々の働きぶりにのみ帰せられる問題ではありません。「お役所仕事」がかくも「形式主義で非能率的」といわれる最大の原因は、職員が地域住民のほうを向いて仕事をすることを妨げている地方自治のシステムそのものにあるのです。
 そして、このシステムを変えていくためには、今まで述べてきたように自治体の自己改革の意思、すなわち「まず地域から変わろう」という意識が重要な役割を果たすのです。「お役所仕事」という不名誉な言葉を広辞苑からなくすためにも、住民本位の地域行政の実現に向けた自治体の自己改革に、各自治体が主体的に取り組まれることを切に期待しています。


群馬県町村会会報『群馬自治』99年4月号掲載
(C)Masahiro Tsujita 1999 All Rights Reserved