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問題提起−日本の製造業の「強さ」は本物か
長期低迷の続く日本経済にあって、我が国の製造業の強さを強調する論調が目立つ。確かにトヨタ、ホンダ、ソニー、キャノンといった企業は国内景気が低迷を深める中にありながら増収増益を重ね、株価も過去最高値を更新している。自動車の場合1ドル=100円で米ビッグ3とコスト競争力が均衡するといわれているが、昨今の円安傾向もこれらの企業にとっては強力な追い風となっている。自動車・電機・電子部品の3業種35社で貿易黒字の約5割を稼ぎ出していることからもわかるように、我が国の経済は、自動車、情報通信、エレクトロニクス、造船、鉄鋼といった国際競争にさらされている製造業系の好調と、金融、建設、不動産、流通など規制業種の多い非製造業系の低迷という二極化が進行しており、昨今の景気低迷は主に後者の産業群が引き起こしていると見てよいだろう。 日本の製造業は90年代前半の急激な円高によって鍛え上げられたコスト競争力のみならず、技術開発の分野でもその強さを発揮している。米国における特許出願件数では日本企業が上位10社のうち8社を占めているし、特許料やノウハウなど技術貿易収支も95年度は受け取り(輸出)が5600億円と支払い(輸入)の3900億円を大きく上回り、しかもその黒字幅は拡大傾向にある。
「基本的には製造業は世界が認める技術力を持っている。企業家精神も死んでいない。製造業は気概さえ失わなければ、間違いなく世界で復権できる。」−今井敬経団連会長 「製造業とその他を分けて見てほしい。製造業は相当なダメージを受けてもまだ強い。97年の貿易黒字は840億ドルある。米国は1800億ドルの赤字だ。(中略)貿易黒字は日本の力だ。日本企業はもっと自信を持つべきではないか。」−関本忠弘NEC会長 「生産性で米国に負けたとは思わない。」−奥田碩トヨタ自動車社長 「通信、放送など世界的な規制緩和の波で日本発の大型商品が出始めた。こうなると要素技術と生産技術を持つ日本勢がまた有利になる。」−辻晴雄シャープ社長(当時)
こうしたコメントからも伺えるように、我が国製造業のトップは自社の経営に相当の自信を持っているように見受けられる。80年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と賞賛された日本の製造業であるが、90年代に入って米国で情報通信革命が起こり、マイクロソフトやインテルといった米国ハイテク企業が隆盛を極める一方で、コスト面では東アジア企業が猛烈に日本企業を追い上げるという状況になると、一転して「日本的経営の終焉」といった悲観論が支配し、そしていままた「製造業復活」と言う。確かに1ドル=80円台という円高に対応して極限までシェイプアップした日本の製造業の企業努力は賞賛に値する。しかしそれだけに現在の製造業の好調さは単に過度の円安がもたらしたものに過ぎないのではないかという意地の悪い見方も成り立ちそうである。 ここにひとつの興味深い調査がある。(財)社会経済生産性本部が97年に実施したこの調査は、80年に実施した調査と同じ質問表を再度用いることによって、日本企業の経営戦略や組織のありかたなどについて、この間にどのような変化があったのかを探ったものである。この調査の結論は日本企業の経営や組織について、@流動化する労働市場への対応、A総花的経営からの脱却、というふたつの変化の方向性が見出されたことと、Bそれ以外の多くの要因に17年間で大きな変化が見られなかったという三点である。調査報告はこれについて「@Aのような変化は見られるものの、最大に注目すべき調査結果は、多くの項目において統計的に有意な差が表れなかったことである。これは日本企業が大まかには旧態然としており、抜本的でドラスティックな革新的行動に出ていないことを示している。」とコメントしている。 もちろん、この調査の対象となったのは製造業だけではないから、この結果をもって製造業の経営や組織が17年前からあまり変化していないと断じることはできないが、米国企業の多くが90年代初頭に抜本的かつ大胆なリストラクチャリング(事業の再構築)やビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)によって復活してきたことに比べれば、日本企業の場合は革新的というよりはむしろコストダウンや人員削減あるいは海外への生産拠点の移転といった漸進的な企業努力によって今日の地位を維持しているという印象は否めない。 日本の製造業の強さは本物なのか。日本の製造業に死角はないのか。その意味で特に懸念されるのは、90年前後から急速に差が開きつつある米国と日本の企業の情報関連投資である。後述するように特に情報通信革命の到来といわれる90年代前半において日本企業は情報関連投資に積極的であったとは言い難い。米国企業の積極的な情報関連投資は経営や組織にどのような変化をもたらしているのか。そして日米間の情報関連投資の差は今後の日米企業の競争にどのような影響を与えるのか。こうした問題を探るのが本稿の目的である。
情報化に立ち後れた日本企業
情報技術の発展や情報関連投資の拡大によって生産性が向上し、その結果として米国経済は景気循環を克服したといういわゆる「ニューエコノミー論」が、賛否両論はあるものの広く注目を集めているように、90年代に入ってからの米国経済の好調さを支えている要因のひとつに積極的な情報関連投資が挙げられる。 日本開発銀行の調査
によれば、米国の情報関連設備投資は90年から94年の間に名目ベースで年平均9.5%の伸率で増加しており、94年で約1300億ドル、設備投資全体に占める割合は約19%に達している。これに対して我が国では同期間の情報関連投資の伸率は年平均マイナス0.8%とほぼ横這いであり、金額的にも94年で約7.5兆円、設備投資全体に占める割合も約11%と、米国に比べて格段に低い水準にある(図1・表1)。

特に米国との違いが際立っているのが、時系列で見た場合の情報関連投資の動向である。物価上昇分を除いた実質値で見た場合、80年代を通じて日本の情報関連投資は年率二桁という高い伸率を示していたが、90年代前半では逆に米国が急速に情報関連投資を進めたのに対し、日本は一転して低調なものとなっている(表1)。
 ここで注意を要するのは、情報関連投資といっても80年代と90年代とでは、その内容・意味が大きく異なるという点である。80年代の情報関連投資の主役は大型汎用機(メインフレーム)であり、銀行のオンラインシステムや生産現場への導入など事務の省力化・作業の効率化が情報化の主たる目的であった。これに対して90年代に入るとパーソナルコンピュータをベースとしたダウンサイジング・分散化の方向へと情報化の流れが一転した。さらにこの流れは通信と一体化し、LANやインターネットに代表されるネットワーク化へと進むわけで、その意味でまさに「情報通信革命」と呼ばれるような劇的な転換が起こったのが90年前後であったと見てよいだろう。 問題は、米国企業が90年代に入ってこのダウンサイジング・分散化・ネットワーク化という一連の流れに沿って情報関連投資を一気に加速させたのとは対照的に、日本では折りからのバブル崩壊に伴う不況の影響によって、企業がこのタイミングに情報関連投資を手控えざるを得なかったことである。加えて「終身雇用制が定着しているため、情報化の効果がすぐには表れてこない(佐藤文夫東芝会長)」というように、日本企業特有の雇用形態も情報化の阻害要因となっていることもあり、結果として現在、企業内のパソコン設置台数、LAN接続比率、インターネット接続比率といった各種「情報化指標」で見ると日米で3倍程度の開きがあり、時間的に約5年程度の遅れをとっていると言われている。 折りから、米国では93年にハマー&チャンピーの「リエンジニアリング革命」が出版され、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)が一世を風靡したが、顧客満足を軸にビジネスのプロセスそのものを抜本的に組み直すというこの手法の実現のためにはネットワーク化された情報システムの導入が前提となる。BPRの導入は企業のホワイトカラーの削減につながるため、特に終身雇用を前提とする日本においては否定的に捉えられがちであったが、この手法が米国企業の復活に果たした役割を過小に評価するべきではないだろう。 以上を要約すると、80年代を通じて従来のビジネス・プロセスを前提としてそこに情報技術を導入することによって主に生産現場での生産性の向上を漸進的に進めてきた日本企業と、90年代に入って情報技術の活用によってビジネス・プロセスそのものをドラスティックに組み直すことによって生産性を高めた米国企業というかたちで、日米企業は情報化に関して極めて対照的な展開を見せているということができる。
情報化の本質
さて、このような情報化への取り組みに関する日米企業の方向性の違いは具体的にそれぞれの企業の経営にどのような影響を与えるのだろうか。このことを考えるうえで、まず「情報化」そのものの持つ意味について今一度整理しておきたい。 一般に、取引において一方の取引主体が他方の主体にはない情報を有している状態を「情報の非対称性」といい、市場に情報の非対称性が存在する場合には市場において効率的な取引を行うことが困難となり、いわゆる「市場の失敗」を引き起こすこととなる。伊藤・松井[1989]によれば、この情報の非対称性を回避する手段のひとつとして特定の相手と長期継続的な取引関係を構築する「組織的取引」による方法があり、いわゆる「日本的経営」と呼ばれる経営形態はこの組織的取引に極めてフィットした経営形態であるという。 企業活動とは必要な生産要素を調達しそれを加工して製品のかたちにして顧客に提供するという一連のプロセスをとる。同時にそのプロセスを維持するために必要な労働力、資本、ノウハウといった経営資源も調達する必要がある。日本的経営の特質として、このような一連のプロセスの諸側面において前述の「組織的取引」すなわち特定の相手との長期継続的な取引関係に依存していることが挙げられる。例えば部品や原材料は系列・下請という特定の相手からの調達が主体であるし、販売も特約店・代理店といった系列のもともっぱら営業マンが「お得意先」との長期固定的関係を構築していくような手法が主流であった。資本調達も株式や社債といった資本市場からの調達よりもメインバンクと呼ばれる特定の金融機関からの借入が基本であり、労働力も終身雇用・年功序列という日本型雇用形態に見られるように労働市場からの調達のほうが例外的である。 つまり我が国においては、市場に情報の非対称性が存在しそれは市場取引の範囲内では解決できないという前提の下に、情報の非対称性を回避して取引を効率的に成立させることを目的として経営システムが構築されてきたということができよう。これは日本のように閉鎖的・同質的な社会において特に効果を発揮するシステムであった。 しかし、情報化・ネットワーク化の進展はこうした関係を一転させる。なぜなら情報通信革命によって情報の非対称性はかなりの程度まで解消されるからである。例えば消費者は今までは広告などもっぱら企業側が提供する情報によってしか製品の内容を知ることができなかったが、今ではインターネットなどを通じてその製品に関する多種多様な情報、例えばクチコミ情報の類いまで引き出すことができる。つまり、情報ネットワークを介して消費者は必要な情報を時間的・コスト的制約をほとんど気にせずに自ら収集・処理できるようになったわけである。そしてこの変化は対消費者だけでなく、部資材の調達、資本・労働力の調達など企業活動のあらゆるプロセスについて同様に起こりつつある現象である。 こうした情報の非対称性の解消を通じて市場が効率的に機能し始めるようになると、組織的取引に依存した日本的経営はその長所を減殺され、代わって短所が顕在化してくる。その短所とは、特定の相手との長期継続的な取引関係がもたらす高コスト構造と柔軟性の欠如である。真に市場が機能し始めると、すなわち市場における競争原理が有効に働きだすと、組織的取引関係を維持するためのさまざまなコストは逆に企業にとって大きな重荷となりかねない。また組織的取引関係は、それが強固であればあるほど経営環境の変化へのスピーディな対応をとりにくくする。このように見てくると現在の日本経済の問題点は、情報化の進展によってグローバルなレベルで「効率的」な市場が成立しつつある現在の状況に、組織的取引依存型の経済システムが不適合を起こしていることに起因していることが見てとれよう。
IT(情報技術)をレバレッジとして進化する米国企業
一方、米国企業の多くはBPRによる復活の過程でIT(情報技術)を活用しながら自らを「市場取引」に適合的な形態へと進化させている。米国企業における情報技術導入の現状を部資材調達・企業内部・対顧客(消費者)の3つの側面に分けて見てみよう。 まず部資材調達の分野であるが、ここではインターネットを活用した調達ネットワークを構築し部資材の世界最適調達を目指す動きが活発である。GEが96年から開始したGE-TPN(Trading
Process
Network)という調達ネットワークの場合、初年度で7000社がネットワークに加入し、約1000億円の調達を達成したという。また、北米約1300の自動車およびトラックメーカー、部品供給会社による非営利業界団体AIAG(Automotive
Industry Action Group)は昨年からANX(Automotive Network
eXchange)という調達ネットワークの実験を開始した。これが稼動するとGM、フォード、クライスラーの米ビッグ3が共通のネットワーク上で部品調達を行うことになり、AIAGではANXによる調達プロセスの合理化効果は2000年までに10億ドルに達すると推定している。 次に企業内部の情報化であるが、これについてはSAP社の"SAP/R3"に代表されるERP(Enterprise
Resource
Planning)と呼ばれる統合業務パッケージ・ソフトウェアの急速な普及が注目される。従来、社内情報システムは基本的にそれぞれの企業の固有ニーズに合わせてオーダーメイド的に構築されてきたが、ERPはそれをパッケージで提供し、企業はそのパッケージ群から必要なものを組み合わせて導入するという点で画期的である。欧米では既にAT&T、IBM、GE、P&G、マイクロソフト、モトローラ、エクソン、デュポンといった有名企業での導入が相次いでいる。ERPの特徴は第一にBPRのドライビングフォースとなることにある。ERPはパッケージソフトであり、世界の優良企業の業務プロセスから共通化されたプロセスが「ベスト・ビジネス・プラクティス」としてパッケージングされている。従って導入に際しては自社の業務プロセスにシステムを合わせるのではなく、ERPが提供するベスト・プラクティスに合わせて自社の組織や業務プロセスを変更することになるため、結果としてERPの導入によってBPRが実現されることになる。第二の特徴はいわゆる大福帳型のデータベースであるため、必要な情報をリアルタイムで提供でき、経営における意思決定の迅速化を図る事ができる点である。そして第三の特徴はその多言語・多通貨・多国籍対応である。これにより、グローバルに展開する企業であっても各拠点を統合システムで管理することが可能になる。この特色はまた同じERPシステムを導入していれば企業間のシステムの結合も容易になるということであり、グローバルレベルでの企業間提携、合併、M&A、MBOをスムーズに実現するという機能も期待されている。 最後に対顧客であるが、これについては多言を要しないであろう。インターネット等を活用したEC(エレクトロニック・コマース)、リレーションシップ・マーケティング、one
to
oneマーケティングの事例は枚挙にいとまがない。その背景には米国ではオフィスのみならず家庭内にもネットワーク接続されたパソコンが広範に普及していることがある。野村総合研究所が97年に実施した調査によれば、家庭でのパソコン保有率は米国52.6%に対し日本33.0%、そのうちネットワーク接続率は米国63.4%に対し日本34.6%であり、両国の人口から単純に計算するとネットワーク接続されたパソコンの保有世帯数は6倍以上の開きとなる(ちなみにこの調査は韓国、シンガポールを含む四カ国で実施されたが家庭でのパソコン保有率、ネットワーク接続率とも日本が最低である。)。 さて、以上のような米国の状況を総括すると、消費者(顧客)―企業―サプライヤーというビジネス・プロセス全体が、インターネット、イントラネット、エクストラネットという情報ネットワークでシームレスに結合されつつあるということが言えるであろう。しかも、このシームレスなネットワークは川上から川下へという垂直方向だけではなく、サプライヤー間、企業間あるいは消費者間という水平方向にも広がっているということに注意する必要がある。従来の日本に顕著であった組織的取引が消費者−企業−サプライヤー間のつながりをいかに太く強固なものにしていくかということだったとすれば、現在の米国の状況は逆にそれぞれの主体が情報ネットワークという糸でまさにweb(蜘蛛の巣)のように薄く広くつながるような方向へ向かっているようである。
顧客価値最大化を軸としたドメインの再構築
このような「バリュー・チェーン」ならぬ「バリュー・ウェブ」の形成によって、米国企業の経営は大きく変化しつつある。その変化とは一言で言えば「顧客価値の最大化」を軸とした企業ドメインの再構築である。これまでも「顧客満足」「顧客第一主義」は多くの企業がそれこそお題目のように唱えてはいた。しかし、情報通信革命によって情報の非対称性が解消されつつある今日、ついに真の「顧客主権」の時代が到来したのである。レジス・マッケンナ[1997]は次のように述べている。 「選択の幅は顧客に力をもたらす。力を持った顧客は、自分のニーズにきめ細かく対応した製品やサービスを提供されると忠実な顧客になる。これは昔とはまったく逆の世界だ。以前は顧客が製品やサービスに自分の生活を合わせなければならなかった。(中略)パソコンが顧客へのパワーシフトに果たしている役割には驚くべきものがある。パソコンのおかげで、個人的な情報やネットワークへのアクセスが顧客の手に委ねられ、特別にしつらえた情報を利用して購買決定をすることにより、顧客はより自立的な感覚をもてるようになる。」 顧客が購買決定に必要な情報を全て入手可能であるということは、今や情報の非対称性を利用して顧客を自社製品に誘導することは困難になりつつあるということである。逆に顧客が購買決定に必要な情報を積極的に提供することが、その製品が顧客の購買検討対象に入るための前提条件となるということでもある。そして、顧客に製品および企業に関する情報を全て差し出した上で顧客の選択を仰ぐという真の「顧客主権」の時代において、企業の側のなすべきことはいかに顧客が求め満足できる製品を顧客の手元にスピーディに届けられるか、というある意味でマーケティングの原点に立ち返ったポイントに収斂する。すなわち顧客満足最大化を軸としたドメイン・戦略の再構築が求められているのである。 特に昨今のように競争が激化し製品単体での差別化が難しくなりつつある状況では、コトラーの「製品とは便益の束(bundle
of
benefit)である」という言葉を持ち出すまでもなく、顧客が求める価値・機能を付随するサービスまで含めてトータルにパッケージングして提供する必要がある。GEのジャック・ウェルチ会長は「我々の仕事は単に製品を販売することではない。『高品質な製品の販売も行うグローバル・サービス・カンパニー("A
global service company that also sells high-quality
products")』を目指している」と言い、IBMのルイス・ガードナー会長も「1997年で見るとサービス事業の売上高はIBM全体の四分の一にのぼり、従業員の三分の一がサービス事業に従事している。」と述べるように製造業におけるサービス業務重視の流れが起こりつつある。 ただし注意しなければならないのは、今後附帯サービスの重要性が高まるからといって、この部分を自前で提供することが必ずしも顧客満足最大化につながらないこともあるという点である。なぜなら附帯サービスの部分についてもまた顧客は必要な情報を入手できるからである。従って自社で充分なサービスを提供できない場合にはこの部分をサービスの専門家にアウトソーシングすることも考えなければならない。つまり、何が顧客価値の最大化なのかということを追求していくと「自前主義」を捨てなければ対応できなくなることもありうるのである。むしろ逆に自社の弱い部分については積極的に他のパートナーと組んでトータルで最良のパッケージとして顧客に提供することのほうが、ビジネスチャンスを逃さないという点で重要になってくる。
欧米自動車業界におけるアーキテクチャーの変化
このように、バリュー・ウェブの形成を前提として顧客価値の最大化を軸にドメインの再構築を進めていくとどのようなことが起きるだろうか。ここでは欧米の自動車業界で現に起こりつつある変化を通して、アーキテクチャーという軸からそれを見てみよう。 さて、米国企業は情報通信産業の分野においてほぼ主導権を手中に収めつつあるが、情報通信産業は従来のビジネスモデルでは想定されていなかった、きわめて特異な性格を持っている。例えばパーソナルコンピューターは、周知のとおりOS、CPU、メモリー、ハードディスク、液晶といったさまざまなモジュールの複合体であり、それぞれのモジュール別にコア・コンピタンスに特化したメーカーが存在する。アセンブリー・メーカーは顧客のニーズに応じてこれらのモジュールを適宜組み合わせて最終製品のかたちで市場に送り出す。これが可能なのはパソコンの場合、モジュール間のインターフェイスの標準化がなされている、いわゆる「オープン・アーキテクチャー」型の製品だからである。これは川上から川下までを垂直統合することによってスケールメリットを追求する従来のモデルとは対極に位置する新しいモデルである。 藤本[1998]によれば、製品・工程のアーキテクチャーとは、どのようにして製品を構成部品や工程に分割し、そこに製品機能をどう振り分け、部品・工程間のインターフェイス(継ぎ手)をどのように設計・調整するかに関する基本的な設計思想のことであり、大きくオープン(開)型とクローズ(閉)型がある(図2)。オープン型とは、機能的に独立性が高く、かつインターフェイスが標準化したモジュールの組み合わせでできた製品で、良い部品や良い工程を連結すれば直ちに高い価値を生む。他方クローズ型製品は、各部品間・工程間の相互依存性が高く、互いに微調整しながらじっくりと最適設計・連携製造することで初めて価値が生まれる。
 従来、自動車や家電などクローズ・アーキテクチャー型の産業領域では日本企業がその強みを遺憾無く発揮してきた。これは前述の組織的取引依存型の日本型経営モデルがインターフェイスの微妙な調整を必要とするクローズ型に適した形態であることにその理由を求めることができる。では、クローズ型の産業領域では今後も日本型経営モデルが有効かと問われれば残念ながらいささか懐疑的にならざるをえない。なぜなら、米国企業に現在、オープン型で培われた経営手法をクローズ型の産業領域に持ち込み、そのアーキテクチャーをオープン型に変えようとする試みが見受けられるからである。 例えば欧米の自動車メーカーでは生産工程のモジュール化がひとつの潮流となりつつある。クラーク&ボールドウィン[1997]が「自動車業界での大手の最終組立て企業は今世紀の大部分は高度に中央集権的な設計組織に頼ってきたが、今やそこから離れつつある。コスト削減、技術革新のペースの加速、さらには品質改善などの圧力が増大するなかで、現在その複雑な電気機械的システムの設計を小単位に分割する方法を模索中である。」と指摘しているように、フォルクスワーゲン、ダイムラー・ベンツ、GM、フォードなどのメーカーでは、生産工程をコックピットや燃料タンクといったいくつかのモジュールに分割し、各モジュールはモジュールサプライヤーと呼ばれる部品メーカーに部品調達も含めて製造を一括発注、メーカーはこれらのモジュールを組み合わせて完成品の形にするというシステムの採用に取り組んでいる。 こうした欧米企業のモジュール化の動きに対して、日本の自動車メーカーは「複合化が先にありきで、個別の部品自体は日本製の方が競争力がある(トヨタ首脳)」と、今のところ慎重な態度を見せている。確かにこうした自動車のモジュール化が今後の自動車生産の主流になるのかどうかは現時点での判断は難しいかもしれないが、少なくとも欧米の自動車メーカーは、モジュール化による製品の「オープン・アーキテクチャー化」の方向に向けて動き出していることは確かである。前述のグローバル調達ネットワークANXの構築や先頃発表されたGMの部品部門デルファイ・オートモティブ・システムズの分離といった動きもこの流れに沿ったものといえるだろう。ちなみにメルセデス・ベンツの新型スポーツ仕様車の運転席モジュールはこのデルファイ社が生産を担当するという。つまり、欧米の自動車メーカーは情報ネットワークを背景に生産工程のモジュール化による製品の「オープン・アーキテクチャー化」を推し進め、世界最適調達による品質・コスト管理とモジュールの組み替えによる市場ニーズや技術革新への迅速な対応を目指すという戦略へシフトしつつあるのである。これは日本企業が得意とする「系列」モデルとは対極的な戦略である。 一方、生産面だけではなく販売面においても大きな変化のうねりが起こりつつある。米国の調査会社JDパワーによれば、米国におけるインターネットを利用した新車販売は97年には16%だったが今年は26%に、そして2000年には50%を超えると予測されている。なかでも95年に営業を開始したインターネットによる自動車販売のフランチャイズ、オートバイテル・コム(Autobytel.com
inc.;旧社名オート・バイ・テル)は今年度の購入者見込みが150万人と、年間1500万台といわれる米国新車販売市場の実に10%を押さえるという驚異的な成長を示している。これもまた、有力ディーラーを系列化しインセンティブ(販売奨励金)と営業マンによる人海戦術を基本とする従来型の営業の基盤を根底から揺るがす動きである。 欧米の自動車業界におけるこうした川上・川下両面での変化の流れはけっして相互に無関係なものではない。オートバイテル・コムに見られるように顧客(消費者)が自ら情報ネットワークを駆使して購買決定に必要な情報を全て入手したうえで自立的に決定を下すことが可能になったとき、メーカー側のなすべきことは品質・コスト・デザイン・使い勝手の良さなどあらゆる面で顧客にとって真に価値のある製品をすばやく開発し生産することである。そこでは、川上から川下に至る垂直統合や全てを自社で揃える自前主義、あるいはフルライン戦略による「規模の経済性」よりもむしろ「範囲の経済性」「ネットワークの経済性」「スピードの経済性」が戦略として志向される。そしてそのために生産工程をモジュールに細分化し、情報ネットワークを活用してそれらのモジュールを多様な顧客ニーズに応じて適宜組み替えることによって競争優位を実現する。このような情報通信産業で一足先に起きている新たなビジネス・モデルの追求、それが欧米の自動車業界で起きていることなのである。 では、このオープン・アーキテクチャー型への移行というトレンドは今後他の業種へも波及していくのだろうか。少なくとも「モノ作り」の分野においては今後今まで述べてきた自動車産業のような試みが欧米企業を中心として試みられていくことは確かなものと思われる。同時に今後注目すべきはむしろサービス業の世界かもしれない。前出の藤本やクラーク&ボールドウィンも先端金融商品の世界の急速なオープン・アーキテクチャー化を指摘している(図2)。ブライアン・アーサーが指摘しているようにサービス産業も「収穫逓増」に支配されているとすれば、オープン・アーキテクチャー化になじみやすい領域である可能性は高い。
ビジネス・プロセスの断片化(フラグメンテーション化)
さて、以上述べてきたようなモジュール化とその適宜組み替えによる競争優位の実現という新たなビジネス・モデルは必然的にビジネス・プロセスそのものの断片化(フラグメンテーション化)を促す。既に見てきたように情報ネットワークによる世界最適調達の実現は少なくとも従来型の「下請け・系列」という組織的取引形態を解消する方向に働くし、従来自社内に抱えていた部門であってもデルファイ社のように積極的に切り出して本体にあってはコストダウンを、切り出された部門は競争力強化をそれぞれ狙うという動きも起こるだろう。販売部門についても自社で流通系列を構築しディーラーを抱えるよりもむしろオートバイテル・コムのようなところに販売を任せるほうが効率的でかつ顧客満足を高めることになる。また、モジュール化され組み替え可能になるのは社内の人的資源も例外ではない。ERPによって業務が標準化されることによって人材の「入れ替え」もまた従来以上に容易となる。アウトソーシング、M&A、MBO、合併、提携といったことがこのモデルでは今後ますます頻繁に起こることであろう。比喩的にいえば従来型のビジネス・モデルが純正部品だけできっちりと組み上げられたシステムだとすれば、新しいモデルではそれをいったん部品単位に分解したうえで必要に応じて純正部品を外してサード・パーテイ製の部品と入れ替えた上で新たに組み直すというイメージである。従来はサード・パーティ部品を組込むと継ぎ手(インターフェイス)の部分でコンフリクトを起こしがちであったが、これについてはインターフェイスの標準化を進めることで解消される。また情報技術の進展が多数のサード・パーティ部品の中から最適なものを選択し、かつ組みあわせた上で順調に作動させるために威力を発揮する。 このようにビジネス・モデルの断片化が進む業界における企業の戦略は、大きくふたつの方向に分かれるだろう。ひとつはある特定のモジュールに特化したうえでそこでの世界最強をめざす方向であり、もうひとつは断片化されたモジュールを再統合する役割をめざす方向である。前者はいわゆる「コア・コンピタンス」への選択と集中という戦略である。ハイテク産業では、半導体事業から勇気ある撤退を行いMPUに特化することで今日の地位を築いたインテルがその代表例であるが、日本の製造業ではシチズンの事例が注目される。国内市場においてセイコーの後塵を拝していたシチズンは80年代初頭に腕時計のムーブメント(駆動部分)の外販を決定しそこに経営資源を集中した。その結果シチズンのムーブメントは事実上の世界標準となり、現在ではシチズンは腕時計市場で世界シェアの24%を握る世界最大の時計メーカーとなった。 後者の断片化されたモジュールを再統合する役割とは、例えばここに挙げたようなインテルのMPUやシチズンのムーブメント、あるいはオートバイテル・コムの販売力といった個別のモジュールを顧客ニーズに応じて組み合わせて最終製品の形で市場に提供する一種のプロデューサー的機能をいう。例えばデル・コンピュータやナイキのようなファブレス企業などがこの典型といえるだろう。また、マイクロソフトはOSというひとつのモジュールに特化した企業ではあるが、パソコンのアーキテクチャーの設計自体を支配することによって事実上このプロデューサー機能を果たしていると見るべきであろう。 では、このようにビジネス・プロセスが個別のモジュールに断片化し、それを世界最適調達することが可能な状態において、プロデューサー機能を志向する企業の競争優位の源泉はなにか。それは高品質や低コストといった個別の要因ではなく、それらを含めたトータルな顧客価値を実現する能力である。オープン型アーキテクチャーの典型であるパソコンの場合、個別モジュールを組み合わせて製品を作るアセンブリー・メーカーは品質や価格の面ではほとんど製品の差別化が困難であるが、そのような中にあって急成長しているのがデル・コンピュータである。デルは大口法人顧客に特化(同社の売上の90%)し、同社の基本戦略である「直販・受注生産方式」を梃子に顧客のTCO(Total
Cost of
Ownership;ハード・ソフトのコストだけでなくシステムの運用・保守までを含めたトータルコスト)削減のために顧客密着型の細やかなサービスを提供することによって高業績をあげている。 また、国内では伸び悩むパソコン市場にあえて参入したソニーのノートパソコン「バイオ」の爆発的なヒットが注目される。バイオはそのスペックや価格の面では先行各社の製品と比べても目新しさはないが、その斬新なデザインとデジタルAV機能の強化というコンセプトが顧客の圧倒的な支持を得た。なお、バイオのヒットに対抗して競合他社は従来モデルの外装をバイオと同じシルバー系に変更しただけのいわゆる"銀パソ"を相次いで市場に投入したが、これは顧客価値実現能力の弱さを自ら露呈しているようなものである。 このようなデルやソニーの成功例からも、オープン型アーキテクチャーの世界における競争優位の源泉は顧客価値の実現能力にあることが理解されよう。就任後「デジタル・ドリーム・キッズ」をCIとして掲げたソニーの出井社長は「技術者としてデジタル化の夢を追うという『デジタル・ドリーム』と、夢を追う子供心を忘れないという『ドリーム・キッズ』の両方の気持ちを持った組織が"これからのソニー"だ。」と述べているが、まさに出井社長の言う「ドリーム(夢)」というキーワードに顧客価値の本質が込められているように思われる。彼は「デジタル・ドリーム・キッズ」というCIを通じて、顧客価値を追求するという同社の基本理念を消費者およびソニーの従業員に向けて発信しているのである。
日本企業へのインプリケーション−結語に代えて
石井[1993]は日米企業のマネジメント・スタイルの違いについて、米国企業は「なんらかの事業目的あるいはミッションを設定し、それに到達するための戦略を計画し、最後にそれを実現するための資源を調達する」という「目的合理的」な論理がその根底にあるが、日本企業の場合は「必要と予想される資源をとりあえず蓄積し、その後その蓄積した資源を効果的に運用する場を考え、最後にそれらを矛盾しないように取りまとめることができる『全体的な目的』を設定する」といういわば「資源先行的」な論理を色濃く持っていると指摘している。80年代を通じて、戦略に基づいて資源を調達する米国型の「戦略計画」主導型よりも日本型の「現場主義」すなわち人的資源を含む経営資源の蓄積の中から相互触発的に新しい商品開発や技術革新を生み出していくスタイルのほうがそのスピードやフレキシビリティの点で優位に立っていた。しかし、90年代に入って情報通信革命が起きると、戦略計画主導型の経営スタイルでも情報技術を利用して資源をスピーディに結合することが可能になり、日本型経営の優位は一挙に崩れつつある。国領[1998]はこれについて「日本の社会は長期的関係を持つ仲間内の中で、濃密なコミュニケーションが成立する空間を作ることにはたけていた。特に商品開発などにおいて関係者が徹底的に情報や文脈を共有することで、創造的な仕事をしてきた。しかし、残念ながら、それは物理的な接触を前提とする手法で、仲間内以外の知恵を積極的に取り込むプラットフォームを作るものではなかったと言わざるを得ない。」と指摘している。むしろ情報ネットワークの積極的な活用によって米国企業がネットワークの経済性、スピードの経済性を手にしたのに対し、日本企業はその蓄積した資源自体が足枷となりつつあるというのが現在の状況である。 米国では90年代初頭のリストラの嵐の中で失業者が大量に発生したが、これらの人材はやがて当時勃興してきたベンチャー企業に吸収されていった。ここ数年日本でもシリコンバレーのようにベンチャー企業を活発に興せないかという議論が盛んであるが、米国におけるベンチャー企業の隆盛は前述のビジネス・プロセスの断片化が前提となる。なぜなら米国ではベンチャー企業はビジネス・プロセスにおける「モジュール」としての役割を担っているからである。大企業が自前主義を捨てモジュールの組み合わせによる再統合を志向することによって初めてそこにベンチャーの参入余地が生まれるのである。これに対して日本企業のリストラはその本来の意味である「事業の再構築」とは全く異なる、既存のビジネス・プロセスを温存したままでの単なる人減らしの域をでていない。それゆえベンチャー企業は立ち上がらず、新たな雇用機会は創出されない。これでは日本経済が活性化するはずもない。 従来の資源蓄積先行型の経営では米国企業に対抗できなくなりつつある現在、日本企業も自己のビジネス・プロセスを再点検して、組織内に固定化してきた経営資源を一度整理する必要があるのではないか。そのためには持ち株会社制度や連結納税制度あるいはM&A促進のための法税制の改正といった、ビジネス・プロセスの断片化や再統合をスムーズに行えるようにするための制度面の整備も当然必要となるが、それ以上に求められるのは企業経営者の明確な戦略思考であろう。つまり資源先行型から戦略先行型への切り替えが必要なのである。マイケル・ポーターは「日本企業にはほとんど戦略がない」と指摘しているが、戦略を目的の設定とその実現のためのシナリオであるとするならば、日本企業の場合企業の目的が不明確だからビジネス・プロセスの再構築にも着手できないのである。そしてその目的とは売上・利益・シェア・成長率あるいはROEといった数値目標ではなく、先にも述べたように「顧客価値の実現」に置かれなければならない。顧客価値の実現に向けて戦略的に経営資源を組み替える。これこそが今の日本の経営者にもっとも求められていることなのではないだろうか。 経営資源の組み替えといった場合、当然そこには人的資源も含まれるわけであるが、これに対しては雇用の維持という面からの反論が起こることが予想される。しかし、終身雇用という制度がほんとうに従業者にとって幸福なシステムなのかどうかも再考すべき時期に来ているのではないだろうか。終身雇用と引き換えに古い仕組みの企業組織に囲い込まれて個人の能力が充分に発揮されないということもある。終身雇用制度の崩壊というとどうしてもネガティブに捉えられがちであるが、むしろ自分の能力を存分に発揮できるような職場への移動が容易に行えるようになるというようにポジティブに考えてはどうか。むろん年金のポータブル化などのセイフティネットの整備は必要である。しかし少なくともこれからの若い人材はそもそも終身雇用にさほど大きな期待も抱いていないし、むしろ仕事を通じて自己実現できるかどうかということのほうが関心が高いのではないか。松下電器産業が98年度に導入した退職金前払制度を、企業側の事前の予想を大きく上回る44%の新入社員が選択したという事実がそのことを端的に物語っている。 また、米国企業が従業員の解雇を日常茶飯事に行っているというのも必ずしも真実ではない。例えばヒューレッド・パッカード社のように雇用の保障を標榜している企業も多い。しかし、ここでいう雇用の保障とは日本の終身雇用のように従業員が企業に隷属するようなものではない。同社のトムリンソン副社長が「エンプロイメント(雇用)は保障するがジョブ(生き甲斐のある仕事)は保障しない。それは個人の努力次第。」と言うように、自己の能力を企業に提供する者に対してその企業で活躍の場が与えられるという意味において、企業と社員が対等の関係にある。つまり、企業が人を選択するが、人もまた企業を選択するのである。そしてより有能な人材を惹きつけるためには、待遇もさることながら「生き甲斐のある仕事」すなわち「夢」や「ビジョン」を経営者は提示しなければならないのである。
以上、第三の産業革命とも言われる情報通信革命を通じて企業経営に大きなパラダイム変化が起こりつつあることを概観してきた。本稿の結論は一言で言えば「ビジョンの明確化」「顧客価値の実現」「戦略思考」という、まさしく企業経営の原点への回帰である。思えば現在の日本を代表する企業の創生期において、松下幸之助や井深大といった創業者達はこれらの経営の原点をまさに「夢」というかたちで明確に胸に抱いていた。終身雇用にせよ系列にせよ、いわゆる日本型の経営スタイルというものはその「夢」の実現のために時々の環境に応じて選択してきた手段の蓄積の結果にすぎない。革命が既存の体制や常識あるいは価値観の打破であるとすれば、情報通信革命以後の世界ではこのような旧来からの蓄積は通用しなくなるということに他ならない。いま日本企業の経営者に求められることは、情報通信革命というこのパラダイムの変化を正しく認識し、経営を根本から「リセット」することである。そしてその作業は創業の原点に立ち帰って自社の夢を再確認することから始まる。「夢」を起点にもう一度ゼロから事業を再構築していく。日本経済の復活はまずそこから始まると言っても過言ではないだろう。
参考文献一覧
・『日本企業強さへの再挑戦(1)衰えていない国際競争力−金融危機封じ込め』
98年1月7日付日本経済新聞 ・『新しい会社インタビュー・今井敬次期経団連会長−恐れられる企業に』98年4月24日付日本経済新聞 ・『新しい会社インタビュー・NEC関本忠弘会長−日本企業は自信』98年7月7日付日本経済新聞 ・『急げ技術立社、飛躍のカギ、ネットワーク、製造業に底力』97年6月19日付日経産業新聞 ・『日本企業悲観論3つの誤解−製造業の強さが復活、「日本買い」余地あり』97年2月24日付日本経済新聞 ・『新日本型産業・企業経営再構築への提言―知的躍動経営への企業革命―』98年3月
(財)社会経済生産性本部経営革新特別委員会 ・『米国における情報関連投資の要因・経済効果分析と日本の動向』96年3月日本開発銀行「調査」第208号 ・『日本産業強さへの再挑戦5・戦略的情報化で変身』98年1月12日付日本経済新聞 ・伊藤元重・松井彰彦『日本的取引形態』
伊藤元重・西村和雄編著「応用ミクロ経済学」(89年東京大学出版会)所収 ・榊原清則・坂田政一『企業組織に対する情報ネットワーク技術の意義』
97年一橋大学イノベーション研究センター「ビジネス・レビュー」vol.45 ・(社)日本電子工業振興協会ホームページ(http://www.jeida.or.jp/) ・『情報通信利用者動向の調査』98年野村総合研究所 ・レジス・マッケンナ『リアルタイム−未来への予言』97年ダイヤモンド社 ・森本博行『高収益事業の価値創造モデル』ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス97年11月号 ・小森哲郎・名和高司『製品とサービスの良循環による製造業の高収益モデル』 ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス98年9月号 ・藤本隆宏『アーキテクチャー−競争力確保の重要要素に』98年3月23日付日本経済新聞 ・K.B.クラーク&C.Y.ボールドウィン『次世代のイノベーションを生む製品のモジュール化』ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス98年1月号 ・『自動車部品、複合化進む』98年2月3日付日本経済新聞 ・『インターネットの脅威−新車販売の20%超、日本進出も窺う』日経ビジネス98年7月27日号 ・ブライアン・アーサー『複雑系の経済学を解明する"収穫逓増"の法則』ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス97年1月号 ・『編集長インタビュー−春田博氏[シチズン時計社長]』日経ビジネス98年8月24日号 ・日置克史・トゥンチョ・ヨルマズ『デル・コンピュータ−発展の三段階と成功の五要因』ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス98年7月号 ・片平秀貴『パワー・ブランドの本質』98年ダイヤモンド社 ・石井淳蔵『マーケティングの神話』93年日本経済新聞社 ・国領二郎『多様な知恵結ぶ"開放系"に』98年1月9日付日本経済新聞 ・マイケル・ポーター『戦略の本質』ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス97年3月号 ・『正社員にも流動化迫る−終身雇用の終幕<上>』98年8月27日付日本経済新聞 ・『性善説が社員を鍛える−ヒューレット・パッカード』日経ビジネス98年1月5日号
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