構造改革特区制度のまちづくりへの活用               辻田昌弘(2004年9月)           

 地方自治体や民間からの自発的な提案に基づき、特定の地域で規制を緩和する構造改革特区制度。全国レベルでの規制改革が難航するなか、地域を限定してその地域の特性に応じた規制の特例を導入することで成功事例を示し、それを全国的な規制改革へと波及させ、併せて地域経済の活性化に繋げるというのが特区制度の狙いである。
 制度が導入され、最初の特区が誕生してからこの4 月で1 年が経過したが、これまでに認定された特区計画は全国で386 件にのぼる。本稿では、この構造改革特区制度の内容について概観するとともに、特に「まちづくり」の観点からみた同制度の活用について考察する。

構造改革特区制度の概要

 構造改革特区制度は概略以下の手順に従って進められる。
  1. まず、全国の地方自治体、民間事業者、個人等から広く特区の構想提案を募集する。
  2. 全国から寄せられた規制改革要望について、内閣官房に設置された構造改革特区推進室がそれぞれの規制の所管省庁と協議して、特区において実施できる規制緩和(規制の特例措置)が決定される。
  3. 決定された規制の特例措置はいわば特区の「メニュー」のようなものであり、各地方自治体はこのメニューの中からそれぞれの地域のニーズに応じた規制の特例措置を選択し、それを利用した構造改革特区計画を策定し、計画の認定を申請する。
  4. 計画が認定されれば晴れて「特区」の誕生となり、認定を受けた自治体は計画を実施する。
  5. 認定から一定期間経過後、民間有識者からなる評価委員会にて個々の特区における規制緩和の効果について評価を行い、@地域を限定することなく全国にて実施、A引き続き当該地域特性を有する地域に限定して適用、B規制の特例措置の廃止又は是正、のいずれかが判断される。
 これまで5 次に亘る特区構想提案において、延べ1457 の提案主体から2347 件に及ぶ提案が寄せられ、そのうち特区において実施できる「規制の特例措置」として決定された規制項目は現在までに129 項目となっている。また、これらの特例措置を利用した特区計画は全国で386 件が認定されている。

構造改革特区制度の意義

 構造改革特区制度の目的は、規制緩和の先行実験と、それを通じた地域の活性化にある。しかしながら、この制度にはもうひとつ、「地方分権の先行実験」としての意味合いがあることを強調しておきたい。地方分権の本質は「ローカル・オプティマム」の実現にあるが、その背景には「地域でできることはまず地域に委ねる」という「補完性の原則」がある。そして、地域がそれぞれにローカル・オプティマムを追求していくと、その結果地域によって規制が異なる「一国多制度」とでもいうべき状態が当然となるはずだ。
 その点、地域固有の課題の解決のために、地域自らの発案によって規制緩和を実施するという構造改革特区制度のフレームワークは、補完性の原則を具現化したものであるといえよう。そして、特区制度の導入を通じて、例えば、特区においてどぶろくの製造が可能であるが、特区以外の地域では依然としてどぶろくは製造できないといったように、一国多制度の状態が生じている。まさにローカル・オプティマムに向けた動きが、実験的とはいえ始まりつつある。
 このように、構造改革特区制度は、地方分権後の地域のあるべき姿を先取りした実験にほかならない。地方分権については、昨今のいわゆる「三位一体改革」を巡る混乱ひとつをとっても、その実現には今後なお紆余曲折があるものと思われるが、分権の実現を座して待つのではなく、自らそれを先取りするかたちで動こうとする自治体にとっては、特区は意義のある制度であるといえよう。そして、そうした自治体の意欲的な取り組みが、同時に分権改革を加速する役割も担っていると解すべきであろう。

まちづくりへの活用事例

 構造改革特区は、産業活性化から教育、福祉に至るまで、地方自治体が抱えるさまざまな課題解決の手段として利用されている(表1)。その中でも、特に「まちづくり」は、そもそも地域の特性やニーズといった個別性が色濃く反映されるものであり、構造改革特区制度の活用に適した分野であると考えられる。そこで、実際に構造改革特区制度を活用して、さまざまなかたちでまちづくりに取り組んでいる自治体の先行事例を紹介しよう(表2)。

表1 構造改革特区分野別認定状況 (構造改革特別区域推進本部公表資料より)
分野 件数
国際物流関連 18
産学連携関連 34
産業活性化関連 30
IT関連 4
農業関連 60
都市農村交流関連 49
教育関連 75
幼保連携・一体化推進関連 51
生活福祉関連 38
まちづくり関連 17
地方行革関連 2
環境・新エネルギー関連 4
国際交流・観光関連 4
合計 386

表2 まちづくり関連の構造改革特区(構造改革特別区域推進本部公表資料より21 世紀政策研究所作成)
特区計画名称 計画主体
規制の特例措置―条例違反の屋外広告物除却の迅速化及び対象拡大
 美しいひだ・みの景観特区 岐阜県
 岐阜市きれい・すっきり簡易除却モデル特区 岐阜県岐阜市
 ふるさと「なら」屋外広告物美観風致維持特区 奈良県
 奈良市屋外広告景観維持特区 奈良県奈良市
 くらしき広告景観特区 岡山県倉敷市
 美の国秋田景観特区 秋田県
 いばらき美しい景観づくり特区 茨城県
 ふくい美観風致維持特区 福井県
 しずおか景観形成促進特区 静岡県
規制の特例措置―駐車場料金の設定・変更手続きの容易化
 郡山市中心市街地駐車場運営特区 福島県郡山市
 岐阜市駐車場運営特区 岐阜県岐阜市
 熊谷市中心市街地活性化駐車場利用促進特区 埼玉県熊谷市
 泉大津市立駐車場運営特区 大阪府泉大津市
規制の特例措置―中心市街地における商業の活性化(大規模小売店舗立地法の特例)
 宇都宮にぎわい特区 栃木県
 岐阜市中心商店街再生特区 岐阜県、岐阜県岐阜市
 和歌山元気まちおこし特区 和歌山県
規制の特例措置―地域参加型のまちづくり計画に基づく交通規制の実施
 松山市観て歩いて暮せるまちづくり交通特区 愛媛県松山市
規制の特例措置―5GHz 帯無線アクセスシステムにおける空中線利得増大の容認
 ITビジネス特区 北海道岩見沢市
 IT特区 IT特区 岡山県

(1) 景観特区
 屋外広告物法では、自治体の定める条例に違反した簡易広告物(はり紙、はり札、立看板)についてはそれを自治体自らが除却できる「簡易除却制度」が設けられているが、「表示されてから相当の期間を経過していること」という要件が定められており、また除却の対象となる簡易広告物についても、例えばのぼり旗の類が対象になっていないなど、実効性の面で充分とはいえなかった。
 ところが、特区における規制の特例措置として、「相当の期間」要件が撤廃され、また除却対象物の範囲も拡大されたため、この特例措置を利用した特区の認定を受けた地域においては、ほぼ全ての違反簡易広告物を迅速に除却することが可能になった。これまでに奈良市や倉敷市など9 箇所で、この特例措置を活用した特区が認定されている。
 なお、その後、屋外広告物法はいわゆる「景観緑三法」のひとつとして改正案が成立、特区での先行実施から全国展開へとつながったケースのひとつとなった。

(2) 駐車場運営特区
 モータリゼーションの進展に伴う中心市街地の空洞化に対処するために、中心市街地の駐車場を整備し、自動車利用者の利便性を向上させることが求められている。しかし、例えば福島県郡山市などでは、中心市街地に公営の立派な駐車場がありながら、その稼働率が低いというアンバランスな現象が生じていた。
 これらの駐車場は、道路整備特別措置法に基づいて設置された有料駐車場であり、管理運営主体は地方自治体だが、料金の変更については国土交通大臣の許可を要すると定められている。そのため、必ずしも利用者ニーズに合致した料金設定がなされていないということが、こうした現象の背景にあると考えられる。
 そこで、これらの有料駐車場の料金設定の変更について、一定の範囲については国の許可を要しないという規制の特例措置が特区において認められた。この特例措置を利用した特区の認定を受けることで、駐車場の立地特性や利用者ニーズを的確に反映した料金を柔軟に設定することが可能となり、駐車場の稼働率の向上を通じて中心市街地活性化へ寄与することが期待されている。

(3) 大店法手続き簡素化特区
 中心市街地の空洞化に伴い、中心市街地に立地する大型小売店舗が閉店するケースが散見される。例えば岐阜県岐阜市では長崎屋やダイエーなどが、また栃木県宇都宮市では西武やロビンソンなどが、それぞれ相次いで撤退している。中心市街地における集客の核となっていたこれら大型店舗の閉店は、周辺の商店にとっても影響が大きく、こうした空き店舗状態は早急に解消される必要があることはいうまでもない。
 しかし、大規模小売店舗立地法では、大規模小売店舗の新設・変更に際しては届出から8 ヶ月を経なければ開店できないと定められており、空き店舗への進出を希望する別の事業者がいてもすぐには出店できないようになっていた。
 今般、中心市街地活性化法に基づく基本計画の対象区域内に限り、特区の認定を受けることで、8 ヶ月を経ずに開店が可能となるとともに、手続きの一部も簡素化されることとなった。この特例措置を利用すべく栃木県は「宇都宮にぎわい特区」の認定を受け、その結果、宇都宮市内の西武が撤退した空き店舗への出店を表明していた長崎屋は、特区認定後3 ヶ月、大店法の届出からはわずか2 週間というスピード出店を実現した。

(4) まちづくり交通規制特区
交通渋滞を緩和し、あるいは歩行者や観光客が安心して歩けるまちにするといった、いわゆる交通政策はまちづくりのうえで重要な政策課題であるが、自治体が総合的な交通政策を立案し、それを実施する際には、さまざまな交通規制が必要となる。例えば、自転車専用レーンの設置や時間帯による車両の乗り入れ規制、あるいは車両の速度制限といったことであるが、こうした交通規制については道路交通法上、都道府県の公安委員会の専管事項となっている。
 愛媛県松山市では、同市の「歩いて暮らせる街づくり構想」の具現化のために、交通規制を市の構想に沿うかたちで実施できるようにする特区構想の提案を行い、特区計画の認定を受けた。具体的には市、所轄警察署、市民、学識者などからなる協議会を設立し、まちづくりに必要な交通規制を公安委員会に提案するという方式をとることとした。これにより、市内の商店街や観光拠点において、実情に応じたきめ細かな交通規制の実施が行われることが期待されている。

 以上に紹介した実例以外に、まだ特区として具体的に申請がされてはいないものの、まちづくりの観点から注目すべき規制の特例措置に「カーシェアリング特区」がある。渋滞対策と環境対策の両面から、近年カーシェアリングが注目されているが、道路運送法上、カーシェアリングはレンタカー業者などと同じ扱いとなり、貸渡場所において保険の加入や「貸渡証」の交付などを行わなければならないとされている。
 この規制の特例措置を活用して特区の認定を受ければ、一定の条件の下でIT等を活用した無人の貸渡施設の設置が可能となった。この規制の特例措置はこの4 月に新たに追加されたばかりであるが、今後これを活用した特区の申請がなされることが期待される。

ソフト面に活用の途

 このように、まちづくりの分野においてもさまざまな特区が各地に誕生しているが、一方、まちづくりの根幹をなす都市計画法や建築基準法は特区制度ではどのように取り扱われているのだろうか。
 構造改革特区推進本部のホームページには、これまでに全国から寄せられた特区構想提案が全て掲載されており、またそれぞれの提案に関する所管省庁と構造改革特区推進室との協議の経緯が掲載されている。 これを見ると、都市計画法や建築基準法についても、自治体等からさまざまな規制緩和要望が寄せられていることがわかる。例えば、都市計画法では、三大都市圏における都市計画や用途地域の決定・変更権限の都道府県から市町村への委譲、また建築基準法では、空き倉庫などを一時的に興行場として利用する場合における、仮設建築物に対する制限緩和規定の準用、といったものである。
 しかし、これらの要望に対する国土交通省の回答を見てみると、同省は、少なくとも都市計画法や建築基準法については、特区で地域限定の規制緩和をすることに消極的な立場を堅持しているように見受けられる。同省の基本的なスタンスは、これらの提案の背景にある自治体のまちづくり構想の実現のためには、特区での規制緩和ではなく、既に用意されている種々の制度、例えば地区計画制度などをうまく活用することによって実現可能であるということのようだ。 また、そうした既存の制度枠組で対応できないようなケースについても、地域限定の特区ではなく、都市計画法や建築基準法そのものの見直し、あるいは運用の柔軟化といった、むしろ全国一律での緩和の方向を志向しているようだ。
 このような国土交通省のスタンスの是非についてはひとまず措くとして、実務的な見地から見れば、都市計画法や建築基準法といった、まちづくりのいわばハードの部分についてよりも、先に紹介した特区の先行事例のように、むしろまちづくりのソフト部分において、特区制度は活用の余地が大きいものと位置付けることが妥当であろう。
 都市計画や建築規制といったハードだけがまちづくりではない。例えば都市計画や建築規制で良好な都市景観を整備しても、そこに違法な立看板やのぼり旗の乱立を許すならば、せっかくの景観も台無しとなる。ハード・ソフトの両面からのアプローチがあってはじめてまちづくりは可能になるのである。
 交通政策もまたしかりで、道路整備というハードと交通規制というソフトが、あるいは駐車場整備というハードと、その料金や営業時間といったソフトがうまく連携する必要がある。まちづくりということをこのように解するならば、特区制度がその実現に向けた有効なツールであるということが理解されよう。

できることから着実に

 特区制度は、所管省庁との合意の下に規制の特例措置が決定されるという制度の枠組からして、そもそも抜本的な規制緩和が実現する可能性はそれほど高くない。それゆえ、特区制度で実現される規制緩和は所詮「小粒」のものばかりであるという批判的な意見も多い。しかし、全国一律での大幅な規制緩和が遅々として進まない現状においては、例え「小粒」な規制緩和であったとしても、それを使わない手はないだろう。
 個々の地域が抱えている固有の課題は、全国的な見地から見れば小さいものも多いかもしれないが、例えひとつひとつは小さくとも、地域にとってはそれぞれが重要な課題であるはずだ。そうした個別具体の課題についてそれぞれの地域がまず声を上げる。そしてひとつひとつ、できることから解決していく。そうした一見地道に見える取り組みの積み重ねの中からしか地域の構造改革は始まらないし、課題解決という点では、実は全国レベルでの規制緩和を待つよりも早道となる可能性を秘めているのだ。より多くの自治体が特区制度を活用した地域の改革に取り組まれることを期待する。


学芸出版社「季刊まちづくり4 号」(2004 年9 月)所収

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