サラリーマンよ、家に帰ろう                                    辻田昌弘

  東京近郊の、ベッドタウンと呼ばれるまちが抱える共通の課題のひとつに「地域文化の形成」が挙げられる。これらのまちの住民は、大雑把に括ってしまえば、古くからその地域に住んでいて地域の産業に従事しているいわゆる「地元の人」と、最近他所から移り住んで来て東京の職場に通勤する「サラリーマン」に大別される。そして、このふたつのグループの間に存在する目に見えない壁が、地域文化の形成を阻害する大きな要因となっているようである。

 このことは、サラリーマンの側に立って見れば、実はいたしかたないことである。サラリーマンにとっては自分の住むまちというのは夜寝るための場所(まさに「ベッドタウン」)でしかないのであって、そもそも彼らに「住民参加のまちづくり」を期待すること自体が無理な話であった。しかし、昨今の景気低迷によって残業や休日出勤が減り、交際接待費が削られ、休日もゴルフだ旅行だといった景気の好い話もめっきり少なくなり、その結果として、サラリーマンが自分の家、自分のまちで過ごす時間は少しずつ増えてきているはずである。つまり、ここに至ってサラリーマンもようやく自分の住むまちを「ベッドタウン」ではなく「ホームタウン」として意識する土壌が整いつつあると考えられる。

 そして、そのように意識を変えることさえできれば、サラリーマンが地元の人と仲良くなるのはそれほど難しいことではない。市町村の広報誌を開いてみれば「一日○○教室」などといった参加型イベントがいくつも開催されているはずであり、まずはこうしたものに参加してみることから始めてみてはどうだろう。また、今までは避けていた町内会や自治会といったコミュニティ活動についても、機会があれば積極的に関わっていくのもよいだろう。こうした活動は従来地元の人を中心に進められてきたが、最近では地元の人たちも高齢化が進んでいるので、サラリーマンも案外歓迎されるものである。例えば町内会が運営する地元のお祭りでも、実は神輿の担ぎ手がいなくてわざわざお金を払って担ぎ手を呼んだりしているところも多いと聞く(もちろん、日頃不摂生なサラリーマンに果たして神輿が担げるかという問題はあるが)。また、サラリーマンにはパソコンという武器があるので(べつに地元の人がパソコンを使えないということではないが)、会計や書記のような仕事とか、あるいはチラシや掲示物を作ったりと、結構重宝がられるようである。つまり、実は意外に地元の人は、サラリーマンに対して「ウェルカム」なのである。

 よく「うちの会社が…」と言うように、今までサラリーマンにとっては会社が「家」であった。しかし、終身雇用、年功序列といった日本型雇用形態が徐々に崩れつつある今、サラリーマンも会社ではない、ほんとうに帰るべき場所を見つける必要があるのではないだろうか。そして、その場所は案外身近なところにあって、サラリーマンが帰ってくるのを待っていてくれているのである。


雑誌『PASTEL 21』 1997年夏号所収
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