【東急大井町線−まちに根づいた線路】 都心のローカル線に風情あり           辻田昌弘

 大井町と二子玉川園のあいだ、約10km 15駅を23分かけてコトコト走る東京急行電鉄大井町線。「東京急行」という名まえとは裏腹に平均時速はおよそ27 kmと「郊外電車」とか「ローカル線」といった言葉が似合いそうなこの電車に乗って、のんびりきままな小旅行にでかけてみた。

 スタートは大井町駅。この駅のホームは北の方向に空が大きく開け、見晴らしがよい。ここから5輌編成の電車に乗ると約1分で最初の下神明駅に着く。一見何の変哲もない駅だが、鉄道ファンのあいだでは、地上を走るJR横須賀線の上を東急大井町線が跨ぎ、さらにその上を新幹線が走る「三段重ね」で有名なのだそうである。 

 ホームの端に立って、上や下を急ぎ足で走り過ぎる電車を眺めていると、「そんなに急いでどこ行くの」と思わず問いかけたくなる。ゆったりとした「ローカル線の旅」の妙な優越感に浸りつつ、次の電車に揺られて1分ほどで戸越公園駅に到着。大井町線は駅と駅の間が1kmに満たない区間が多く、あっというまに次の駅である。だが車中は思ったより人が多く、その内訳もサラリーマン、学生、主婦、ご老人とさまざまで、まさに「生活の足」として利用されている感がある。

 戸越公園駅は、ホームの長さが3輌分しかなく、後ろの2輌は駅から完全にはみ出して停車する。最後尾の車掌さんが安全確認をする際に降り立つ専用の「お立ち台」が線路敷きにポツンとあるのがほほえましい。

 次の中延駅は区内でも有名な中延商店街の入り口にある。ここで高架になった大井町線は、次の荏原町駅で再び地上に降りる。ひび割れたペンキがひなびた感じを醸しだす木造の駅舎が、隣に立つ法蓮寺(荏原七福神のひとつ)の緑とよくマッチしている。

 旗の台駅は、池上線への乗り換え駅だが、傾斜をうまく利用して建てられているせいか、あるいは駅舎が木造のせいか、立体交差の駅につきものの仰々しさを感じさせない。大井町線のホームの端にある北口は、現代風で無機的な東口や南口とは対照的に、まるで江ノ島電鉄の駅のようなかわいらしい出入口で、緑の多い周囲の住宅街にもすんなりと溶け込んでいる。

 電車はこの先で品川区を出て、大岡山や自由が丘で他の路線と交差しつつ二子玉川園へと向かう。大井町から旗の台まで途中下車しなければたったの6分だが、周辺には、戸越公園や法連寺のような見どころもあり、一日ゆっくり散歩を楽しむこともできる。同じ品川区を走る目蒲線、池上線沿線にもそんな味のある駅が多い。

 大井町線はもともと京浜工業地帯と住宅地を結ぶ動脈として1927(昭和2)年に開通し、我が国の高度成長を支えてきた。いまでは本来の使命を終え、「ご隠居」のような身分になりつつあるが、沿線の人々から依然として重宝がられているその姿は、現役を引退してもなお、ご近所から頼りにされる昭和ヒト桁生まれの気骨あふれるおじいさんといった風情がある。「おじいちゃん、いつまでもがんばるねえ」と声をかければ、きっと「なかなか楽させてもらえなくてよ」などと威勢のいい啖呵が返ってくるにちがいない。


三井不動産S&E研究所編『東京都心散歩・品川区』(日本経済新聞社刊)所収
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